岐阜地方裁判所多治見支部 平成3年(ワ)2号 判決
原告
株式会社小嶋商興(X)
右代表者代表取締役
小嶋隆政
右訴訟代理人弁護士
三浦和人
被告国
(Y1)
右代表者法務大臣
松浦功
被告
土岐市(Y2)
右代表者市長
塚本保夫
被告両名指定代理人
西森政一
同
栗木幹夫
同
波多野昭良
同
安部幾男
同
小林富雄
同
千田孝博
同
清水修
被告
国指定代理人 九津見生哲
同
佐藤忠晴
同
刀祢格二
同
大竹良昌
同
川口正樹
同
一宮幸治
同
青山秀雄
同
藤岡富夫
同
田所正
同
安江邦雄
同
志津和穂
同
鈴木通夫
同
熊谷雅
同
笛田俊治
被告土岐市指定代理人
山田征夫
同
中島宣明
同
山田敬治
同
田中計太郎
同
沢田正博
事実及び理由
第三 裁判所の判断
一 争点一について
1 当事者に争いがない事実及び証拠によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告国の建設省の庄内川工事事務所は、昭和五三年一二月に本件土地周辺の河川改修計画を策定し、本件土地の周辺は、治水対策として引堤により川幅を広げ、併せて河道掘削を行い、洪水を安全に下流へ流すという計画であった(〔証拠略〕)。
(二) 原告は、岐阜県土岐市土岐津町土岐口字砂畑一七九二番地にショッピングセンターの建設し経営することを計画し、昭和五五年三月二八日、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律に基づく結審を受けたが、原告がショッピングセンターの建設を予定したいた土地は、土岐河左岸にあり、その一部が河川法五四条に定める河川保全区域にあるため、土地形状を変更する行為及び工作物の新築又は改築を行う場合には、河川法五五条一項の許可が必要であったので、小嶋社長は、昭和五三年六月二〇日、土岐川出張所を訪れ、同所長と原告が計画中のショッピングセンターについて協議を開始した(争いがない)。
(三) その後、原告は河川法五五条の申請のために、昭和五五年二月ころまでの間に複数回土岐川出張所を訪れ、河川法五五条の申請について相談し、テナントがヤマナカに変更になった後も昭和五七年七月から同年一二月までの間に六回土岐川出張所を訪れ、河川法五五条の許可申請の手続について相談していた(〔証拠略〕)。
(四) 小嶋社長は、昭和五八年一月一七日、河川法五五条一項に係る許可申請書を持参して土岐川出張所を訪れたが、土岐川出張所の職員から、(河川法)五五条を超える問題が生じたので申請書を受理するわけにはいかないと言われた。しかし、小嶋社長は、これまで申請について否定的な対応を示されたことはなかったことから右の説明に説得せず、申請書を持ち帰ることを拒否し、申請書を土岐川出張所に預けたままにした(〔証拠略〕)。
(五) その後、同年二月二一日に、小嶋社長は庄内川工事事務所長に対し、電話をかけ、河川法五五条一項の許可をおろせない理由を文書で回答して欲しい旨話し、これに対し、庄内川工事事務所長は、ショッピングセンターの建設が予定されている土地の名義人が申請者と異なっていたので、土地の権利関係について明確にしてもらえば文書で回答しますと答えた。庄内川工事事務所長は、原告が本件土地の一部について所有権を取得した後、昭和五八年三月九日付けで原告に対し、原告がショッピングセンターの建設を予定している土地は土岐川引堤工事の事業予定地であり、ショッピングセンターの建設事業は、工事の実施に重大な支障を及ぼすものと考えられるので、協力をお願いしますという旨の文書を送付した(〔証拠略〕)。
(七) 小嶋社長は、同年三月二二日、土岐川出張所長に対し、土地の権利を取得すれば許可するということなので土地を取得してきたと電話で話したので、土岐川出張所長は、庄内川工事事務所長の話は店舗事業用地にかかる権原の関係を明らかにして欲しいといったものにすぎない旨返答した。しかしながら、小嶋社長は右返答に納得せず、同年三月二八日付けの文書で、二月二一日に庄内川工事事務所長からは申請地の所有権を明確にすれば許可するという指示があったので、右指示のとおり書類を揃えたから許可して欲しい旨の文書を送付した。そこで、庄内川工事事務所長は、同年三月二九日付けで、二月二一日の電話は文書で回答するように強い要請があったので文書が通常有すべき要件を満たすならば文書で回答する旨申し上げたものであり、権利関係が明確になれば許可すると約束したことはない、しかしながら、代替地の斡旋を含む適切な解決策を御相談させていただきたいと考えている旨の文書を送付した(〔証拠略〕)。
2 ところで、〔証拠略〕中には、昭和五八年一月一七日に申請書を提出したところ、土岐川出張所長からは三週間くらいで許可が下りると言われたとの部分がある。
しかしながら、河川法五六条一項で「河川管理者は河川工事を施行するため必要があると認めるときは、河川工事の施行により新たに河川区域内の土地となるべき土地を河川予定地として指定することができる。」と定めた上、その指定の時期について同条二項は「河川予定地の指定は、当該河川工事を施行することが当該工事の実施の計画からみて確実となった日以後でなければ、してはならない。」と規定し、右の「工事の実施の計画からみて確実となった日」とは、河川工事の実施計画調査費の予算が確定した日等を指すものと解されるところ、〔証拠略〕によれば、土岐川の引堤工事については、昭和五七年一二月二〇日の閣議において概算閣議決定がされたことが認められ、予算は国会の議決を経なければ成立しないものの、閣議において決定された予算がその後承認を受けられないということはほとんどないことは公知の事実であるから、昭和五七年一二月三〇日をもって工事の実施の計画からみて確実となった日であると認められる。
そして、土岐川の引堤工事について概算閣議決定がされたことは、土岐川を管理する庄内川工事事務所及び土岐川出張所の職員にとっては、職務の性質上、そのころ知ったはずであり、そうでなくとも、年が明けて勤務が開始して二週間ほどになる昭和五八年一月一七日の段階ではすでに概算閣議決定がされたことは認識していたはずである。そうであるならば、引堤の工事に具体的にとりかかる段階となった以上、原告のショッピングセンターの建設計画が右工事に支障を来すことは容易に予想できる事柄であるから、土岐川出張所長において河川予定地の指定処分をするか否かについて何ら関与していないとしても、許可をすることが支障を来すものである以上、申請について見直しを求めるのであるならばともかく、当然に許可がおりるというような対応を示すことは考え難いところである。したがって、右記載や供述は、にわかに信用することはできない。
また、〔証拠略〕中には、昭和五八年二月二六日に庄内川工事事務所から土地の所有権を明確にすれば申請を許可するとの話があったとの部分があるが、すでに引堤工事をすることが決定し、原告のショッピングセンターの建設が工事の支障となることが明らかなのに、単に原告が建設予定地の所有権を取得すれば許可するといういわば方針を一八〇度転換するような回答をするということは考え難いことからすれば、右記載や供述は、にわかに信用することはできない。
3 原告は、河川法五五条の許可申請をするために、昭和五三年から昭和五七年にかけて土岐川出張所において手続について相談したときには、ショッピングセンター建設について否定的な対応はなかったにもかかわらず、原告がショッピングセンターを建設するために許可申請書を持参して提出した途端、右申請書の受理を拒否し、河川予定地として指定し、ショッピングセンター建設を不可能にしたことは違法であると主張する。
しかしながら、建設省としては、河川法五五条一項の許可申請があった場合には、現存する堤防や河岸の保全に支障がなければ許可するという運用をしているところ、右の運用は、河川保全区域が河岸又は河川管理施設を保全するために指定されるものであることからすれば、妥当な運用というべきである。したがって、建設省としては、河川法五五条一項の許可申請があった場合、現存する堤防や河岸の保全に支障がなければ許可することになるところ、本件土地においては、河川改修が計画されていたものの、その計画について予算が確保されて実現するか否かは、原告がショッピングセンターを計画した当時は不明であり、またショッピングセンターがその内容から現存する堤防や河岸の保全に支障を来すものであり、申請しても不許可となる可能性が高かったという事情が存在していたとも認められない状況においては、建設省(庄内川工事事務所、同土岐川出張所)において土岐川の河川改修計画を策定しているというだけで、右申請を拒否することも相当ではなく、したがって、河川法五五条一項の申請を予定する者に対し、許可が降りない旨を告げるとか事前に断念することを検討させるべき注意義務があったとはいえないから、原告の相談に対し、庄内川工事事務所及び土岐川出張所において、申請を拒絶するとか断念を促すという対応をとらなかったといって、これが違法なものであるとはいえない。
また、本件土地を河川予定地として指定した行為についても、〔証拠略〕によれば、本件の河川予定地の指定は、原告の計画していたショッピングセンターの建設を認めると、その後の工事に支障を来すことから行われたものであると認められるところ、河川予定地の指定は、河川工事は出来るだけ短期間にかつ経済的に施工されることが必要であり、河川工事の実施により河川区域内の土地となるべきことが確実に予想される土地に移転の困難な工作物を築造されたり、当該土地の形状を大幅に変更されたりすると、その後の河川工事の施行に著しい支障を生じるため、それを防ぐことを目的として行われる処分である。したがって、原告が本件土地においてショッピングセンターを建設することは、今後行われるであろう河川工事に支障を来すことは明らかであるから、原告の右行為を防止するために本件土地を河川予定地として指定することは、公共の福祉にかなう正当な行為であって、何ら違法なものではない。
なお、証人各務嘉矩や原告代表者本人は、被告国が本件土地を河川予定地に指定したのは、河川工事の必要性というよりは、大手スーパーであるヤマナカを土岐市に出店させないためではないかとか、小嶋社長がこれまで国や岐阜県及び土岐市の事業に対し異議を申し立てたりしたことに対する当て付けではないかと供述するが、本件土地を河川予定地として指定する必要はなかったと認めるに足りる証拠はないし、右の供述自体、全く裏付けを欠くから、採用できない。
4 以上のとおりであるから、争点1に関する原告の主張は理由がない。
二 争点2について
1 〔証拠略〕によれば、原告と被告国及び同土岐市が、昭和五九年三月一五日に原告が計画していたショッピングセンターが河川法五六条の指定による河川予定地内となったために、原告が代替地で建設計画を立てるにつき本件確認書を取り交したが、本件確認書においては、代替地については、原告が土岐市泉森下町二丁目及び泉大島町三丁目の土地を希望しその取得の斡旋を被告国に申し入れるものとし、被告国は原告の申し入れによる代替地取得の斡旋について被告土岐市に協力を要請し、被告土岐市は最善の努力をするが、代替地取得が不可能となった場合は、原告及び被告らは別途協議すること、代替地の取得が可能となった場合には、河川予定地内の土地所有者原告、代替地所有者及び被告国の三者が一括の契約により売買契約を行うものとし、その三者契約は、河川予定地内の土地取得総額を限度として代替地総額との差額に相当する土地については、原告が代替地所有者と別途契約の上取得するものとすること等が記載されていること、原告が希望した右土地は共有者が一七名いる共有地であり、被告土岐市の職員は共有者のうち一五名と交渉したこと、その回数は三回前後電話もしくは面会により交渉したが、共有者の半数以上が代替地として提供することに否定的な対応であったこと、その後、土岐市土岐津町の土地を被告土岐市が代替地として提供する旨の話がなされたが、土地を賃借しているパチンコ業者が売却に消極的であったため、話が進まなかったこと、その後、被告土岐市から土岐市肥田浅野の土地を持ちかけたが、商圏にあわないということで原告が希望しなかったこと、さらに土岐市泉郷町の土地を原告が希望したが、被告土岐市としては市の整備計画策定中であったため代替地として提供することを断ったこと、その後、土岐市泉町久尻の土地を原告から希望されたが、土地所有者が独自の開発契約を持っているということで売却に消極的であったことから、結局、代替地としていくつか候補が上がったものの、成約には至らなかったことが認められる。
2 原告は、本件確認書は単に通り一遍に用地所有者の売却の意思を確認するというものではなく、積極的に買収を進めるとの債務を定めた契約となっているにもかかわらず、被告国及び同土岐市は、右斡旋義務を履行せず、たんに地主に売る気はあるかないかの単純な質問をしたのみであり、被告らが本件確認書で合意された債務の本旨に従って用地買収の努力をしていれば、代替地の買収が可能であったかもしれないから、被告らの右行為は債務不履行にあたることは明白であると主張する。
右認定のとおり、本件確認書においては、被告国は、代替地の斡旋を被告土岐市に協力を依頼し、被告土岐市は、斡旋について最善の努力をする旨の合意がされているところ、ある土地が河川予定地に指定された場合の補償は、金銭的補償により行われるのが通常であり、代替地はあくまでも金銭的補償に替わる補完的なものであって、その補償の程度も代替地を金銭的補償する場合の金額を上限とするものであり(弁論の全趣旨)、本件においても、本件確認書の合意内容からすれば、右と格別異なるものではないというべきである。
そうすると、斡旋してもらうために対価を別途支払ったという場合ならばともかく、本件のように、原告の希望により被告らに代替地を斡旋してもらい取得するという手段を選択し、その斡旋について格別の対価を支払うという合意はなく、しかも、代替地の斡旋が仮に不調に終わったとしても、最終的には金銭による正当な補償を受けられるという場合には、「最善の努力をする」旨の記載は、交渉の経緯からして代替地取得の可能性が相当低いと判断された場合には、なお引き続き代替地取得のために具体的な交渉をする義務までも課するものではないと解するのが相当である。
そうすると、右認定のとおり、交渉の回数が三回前後電話もしくは面会により交渉したというものではあるが、原告が代替地として希望した土地は共有地であり、しかも、共有者が一七名と多数であり、半数以上が代替地として提供することに否定的であったことからすれば、相当の手段を講じても代替地取得の可能性が低かったというべきであるから、被告らがそれ以上の交渉を続けなかったことが、債務不履行にあたるとはいえないというべきである。
3 右のとおりであるから、争点2に関する原告の主張は理由がない。
(裁判官 田邊浩典)